社員満足を上げ、働きがいのある会社へ「元気な会社をつくるプロジェクト」
  • 2020.01.13
  • 実践ヒント〜人本経営を実現させるには〜

病気の治療、そして子育て・介護と仕事の両立1

成功する働き方改革 4

業績軸の経営では、ステークホルダーとしての認識すらなかった「社員の家族」。労働者はモーレツ社員、企業戦士、もっともひどい言われ方として社畜と称されていました。家庭の事情で仕事を調整するなど想定外という風潮がまかり通っていました。労働者の側も「そんなものだろう」という感覚が強かったことでしょう。長時間労働が蔓延し、家庭生活がおろそかになった結果、少子化社会が進んだというのは言い過ぎでしょうか。
「病気の治療、そして子育て・介護と仕事の両立」――このテーマに沿って働き方改革を考えていく際に人本主義的社風を一気に職場に吹かすチャンスがあります。

制度を主役にしない。お互いさまの風土が絶対に必要

ダイバーシティ企業100選などの公的な顕彰事業も徐々に注目されるようになり、企業の関心が高まっているテーマですが、入り口で間違えてはなりません。例えば、法律以上の先端をいく育児休業制度を導入したとしても、それを活かせる風土がないと必ず宝の持ち腐れになり、機能不全を起こしていきます。休業対象の社員が制度を活用しようとした時に、上司や他の社員から『いい御身分だ』と白眼視されるような職場では制度設定の目的が達成できず、よけいに働きにくくなってしまう危険性があるのです。
まず、しっかりとトップやリーダーが、「わが社は仕事の都合より家庭の事情を優先してかまわない」と明言していくことが求められます。どうすれば、子育てをしながら、あるいはこれから激増してくるであろう親の介護が必要になった社員がそれをしながら働き続けることができるか、社員に考えてもらい意見集約をしていくことが肝要です。
「次は自分の番になるかもしれない、だからお互いさま」の精神で社内体制を整えていくことが、本テーマでの人本主義的働き方改革の実践となります。

当事者の社員から両立できるアイデアを吸い上げる

高知県のファースト・コラボレーションでは、それまでの体験から、社風をよくするためには職場の中心で女性社員が活躍してくれることが重要だと認識しました。そして、女性社員の採用・活用に積極的になり、2006年に『働くママさん計画』を打ち立てました。「こうしてくれたら子育てをしながら仕事が続けられる」という社員からの意見を吸い上げていったのです。その結果、現在は以下のような対応をしています。

  • 勤務時間、勤務日、勤務日数は本人の自由
  • 勤務店舗は自宅、実家、保育所の場所などにより相談のうえ決定
  • 社内に授乳コーナーの設置  
  • 残業、会議免除  
  • 親子出社OK  
  • 子守り依頼OK
  • お昼寝奨励  
  • 外出、早退、欠勤自由(病院、お迎え、買い物など)  
  • 子供最優先
  • 休業中も会社の情報共有の配慮

とても行き届いた配慮がされています。こんなに権利を与えて大丈夫なのかと感じられるかもしれませんが、行使する当事者の社員はそれを権利だと捉えず、必要な時にその程度に応じて活用しています。実際に子育て中の社員からは男女問わず「子供がいる者として大変助かっている。」と喜ばれ、独身の社員からは「子育てママさんの方々は申し訳ないという気持ちもあるかと思いますが、それほど申し訳なく感じる必要はないと思います。」「私自身も活用する日が来れば嬉しい。」という声が届いています。
家庭が円満になることで幸せが増大され、仕事に心から打ち込むことができるという好循環が生まれるということを、同社の事例は教えてくれています。
こうしたサポート体制を、家族の介護が必要になった時にもどうすれば仕事と両立できるのか、社員からアイデアを出してもらい実現していくことで確実に「うちの会社は思いやりがある」と愛着が深まり、一段と社風がよくなっていくことでしょう。

執筆者:小林 秀司

株式会社シェアードバリュー・コーポレーション代表取締役。
人を大切にする「いい会社」づくりのトータルプロフェッショナル。内閣府認定
「地域活性化伝道師」。
社会保険労務士。法政大学大学院中小企業研究所特任研究員。企業内で行う「社風をよくする研修」
の実践を得意とする。また行政機関でも多くの講演実績がある。
著書に「人本経営」(NaNaブックス)、「元気な社員がいる会社のつくり方」(アチーブメント出版)等がある。