社員満足を上げ、働きがいのある会社へ「元気な会社をつくるプロジェクト」
  • 2020.01.13
  • 実践ヒント〜人本経営を実現させるには〜

社員を“ほめて”育てる

社員のやる気を引き出すには 6

日常生活で「自分は誉められて伸びる人」と話すシーンをよく見かけることがあります。確かに、社員のやる気を引き出す「モチベーションマネジメント」を考える上で、“ほめる”ことは重要な要素です。ここでは、どうして“ほめる”ことが大切なのかを考えながら、どのような形で社員を“ほめて”育てるのかを紹介していきましょう。

社員のやる気を高めるのに “ほめる”はどんな意味を持つのか

この問いを考える上で、『マズローの5つの欲求』が参考になります。この考え方は、アメリカの心理学者のアブハム・マズロー(1908/4/1~1970/6/8)が提唱した人間性心理学の古典ですが、現在では社員のやる気を考える際、頻繁に引用されています。

マズローは人間の根本的な欲求を5つに分類し、下の階層を満足すると、次の上位の欲求に移ると提唱しました。まず、第一階層の『生理的欲求』は、生きていくための基本的で本能的な欲求です。社員の視点で言い換えれば、自分自身の生活を維持したい、そのために働きたい欲求で、湿度・空調・施設などの基本的な職場環境や基本給などを求めます。
第二階層の『安全欲求』には、危機を回避したい、安全・安心に暮らしたいという欲求を含みます。つまり、安定して給与が欲しい、安全に働きたいなどの欲求で、会社には雇用の維持をはじめ、安全な職場環境、各種手当、業務上の安全などを要求します。
次の『社会的欲求(帰属欲求)』は、集団に属したり、仲間を求めたりする欲求。ここでは、会社や仲間を大切にしたい、自分も大切にされたいと考え、会社にそれなりに貢献したいと感じています。そして会社には、仕事における良好な人間関係と、信頼のおける上司を求めます。ここまでの欲求は、外的に満たされたい思いから生まれます。
第四階層の『尊厳欲求(承認欲求)』は、他者から認められたい、尊敬されたいという欲求です。ここからは外的なモノではなく、内的な心を満たしたいという欲求に変わります。この段階では、社員は社内で認められたい、他の社員を認めたい、仲間の能力を伸ばしたいと考えており、高い肩書、上司としての尊厳、業績による増収、責任ある重要な責務などを求めるようになります。
最後の『自己実現欲求』とは、自分の能力を引き出し創造的活動がしたい欲求。創造的業務、仕事への挑戦、業務における可能性の実現、昇進の機会を求め、使命を理解してもっと会社に貢献したい、能力を最大限発揮したいと考えている段階です。

この第五階層の『自己実現欲求』まで社員を育成できれば、積極的に会社に貢献しようと動くので会社が自然と元気になっていきます。それには、第一階層から第三階層までの欲求に対応して会社の環境を整えた上で、第四階層の『尊厳欲求(承認欲求)』に応えて、社員のやる気を高めていくことが必要です。『社員を“ほめて”育てる』ことは、この第四階層への対応として代表的な手法で、モチベーションマネジメントを図るために重要といえます。
それでは、どのように“ほめて”育てていけば良いのでしょう。それには3つの手法があります。

“ほめる”手法①:社員のやる気を直接的に刺激する『成果承認』

『成果承認』とは、社員の成し得た仕事の結果やスキルのレベルなどを“ほめる”こと。ヒトは無意識に自分と他者を比較する生き物です。また、自分のことだけでなく、他者のことを自分の基準に照らし合わせて格付けします。そのため、自分の成果を褒めてもらうことで、スムーズに会社や仕事を自分ごと化することができ、社員のやる気を直接的に刺激します。
しかし、売上や仕事の規模などの数字で評価すると経営が業績軸に陥るので、十分な注意が必要です。その対策として、単に数字だけで評価するのではなく、そこに至るまでの努力や工夫、チャレンジ精神などを考慮して“ほめる”ことが重要となります。
例えば、導入している企業も多い「表彰式」では、単純に売上で順位を決めるのではなく、会社でこれまで行ったことのない業務領域への拡大や、新たなノウハウとなりえる要素を含むことなどを評価することで解決できます。「表彰式」の評価基準を配慮することで、社員から進んで新しいチャレンジに試みる可能性が高くなり、会社としても成長することができます。さらに、その延長線上に、会社としてのチャレンジプランを社員から公募して社員のやる気を会社の意欲に変える「社内ベンチャー大賞」もあります。

“ほめる”手法②:社員の帰属意識を創りだす『成長承認』

『成長承認』とは、成果にかかわらず、日常の業務で一生懸命に取り組む努力をしたこと、社員それぞれの状況にあった成長の跡を、発見して“ほめる”ことです。例えば、日常の努力に対して細かい説明や解説を抜きに、「よくやった」「いつも頑張ってるな」「良い工夫だった」と一言かけるだけでも実施できます。社員の視点では、上司が「自分のことをきちんと見てくれている」と感じて、認められたい欲求が満たされます。
創業79年の松下徽章株式会社(東京都台東区、代表 松下芳宗)は、表彰式の盾やカップなどを長年提供してきた会社です。その中で、日常的に“ほめる”ことがヒトを育てるために大切と感じて、上司が部下の成長を“ほめる”ことを形にした「ほメダル」や、その苦労を讃え、労うメッセージを入れる「コトバコ」など、面白いツールを開発しました。
なにも半期ごとや年度末に大々的に“ほめる”だけでなく、通常の勤務の中で気が付いた時が“ほめる”タイミングと捉えることが重要なポイントといえます。

“ほめる”手法③:職場の雰囲気が変わり離職率が下がる『存在承認』

『存在承認』とは、その人に関心を持ち、その存在を認め“ほめる”ことを指します。挨拶や名前を呼ぶ、食事や飲み会に誘うなどもこれにあたります。要は「あなたがいてよかった」「あなたのおかげで助かった」ということを伝えることです。
これを上手に“ほめる”仕組みに導入できているのは、美容室チェーンの株式会社りんごの木(長野市、代表取締役社長 島田良)。この企業では各店舗の朝礼で、スタッフ全員で前日1日にあった出来事を振り返り、他のスタッフ対する感謝の言葉を発表する機会を設けています。これにより、店舗に和気あいあいとした雰囲気が生まれ、スタッフが互いに助け合う習慣が根付きました。さらに職場の雰囲気が変わることで、「この店で働いていたい」という意識が生まれ、スタッフの離職率が著しく低下しました。人材確保ができることで、お客様により良いサービスが提供できています。

“ほめる”3つの手法は、組み合わせること、継続することでその効果がより高まります。あなたの会社でも、まずは小さく“ほめる”ことから始めてみてはいかがでしょう。

執筆者:松宮 洋昌

株式会社イベント・レンジャーズ代表取締役。
「シャカイの課題」や「カイシャの課題」をイベントを通じ解決することをミッションとしている。
「シャカイ」や「カイシャ」の課題の多くは。コミュニケーションの問題によるところが多い。
経営の想い、社員の想いなどをイベントを通じ共感することで、組織が劇的に成長することも多い。
そんなイベントのデザインを得意とする。