社員満足を上げ、働きがいのある会社へ「元気な会社をつくるプロジェクト」
  • 2020.01.13
  • 実践ヒント〜人本経営を実現させるには〜

同一労働同一賃金

成功する働き方改革 3

働き方改革の議論では「同一労働同一賃金」のテーマが必ず出てきます。今週は「人本主義的に考えるとこれについてはどういう道筋が考えられるか」を考察します。
540回超の人本経営実践企業視察で、このテーマについて「いい会社」といわれている企業での法則的特長があるかと聞かれれば、「はい」ということになります。
以前、経済産業局からの委嘱で行った調査*1において、経常利益率が継続して好調な会社と赤字基調の会社では、前者の方が「正社員比率が90%以上である」と回答した企業が30ポイントも多かったという結果が得られています。

*1 http://www.shikoku.meti.go.jp/soshiki/skh_a3/9_info/company/pdf/research/shinan_research_all.pdf

この調査では、伊那食品工業など誰がみても優良企業だと評価されている全国20社に赴き、ヒアリングによってこの法則性を確認しました。20社のうち、正社員比率90%以上という結果であったのは7社、35%にとどまりましたが、正社員比率75%以上でみると13社、90%の企業が該当していました。
調査に応じていただいた未来工業では、800名近い全従業員を正社員で雇用していました。同社は社員のやる気を一番に考える経営を行っていることで知られていますが、この雇用方針にもそれが反映されているのです。正社員と同じ仕事をしているのにもかかわらず、パートという雇用形態だからという理由で差があってはやる気にならないだろう、ということで正社員雇用にこだわっているとのことでした。他にも、西島、昭和測器も同様に正社員比率100%という結果でした。

同一労働同一賃金の課題解決の道筋は正社員比率を高めていくこと

パート労働者の賃金格差をなくすという発想ではなくて、そもそも経営する以上、正社員として遇して雇用できる体制を「いい会社」は図っているという一つの結論に達します。「働き方改革」の大前提は、社員のモチベーションを高めていく結果が得られること、と前号で指摘しました。不安定なパートタイム雇用ではなく、正社員雇用された方が、雇われる側の安心感が断然違うことは明白でしょう。もちろん、パートで働くことを希望しているのであれば、その身分で雇用していくことは妨げません。その場合でも、1時間当たりの賃金は同様の仕事をしている正社員の1時間単価に合わせることです。
もっとも未来工業では、パート雇用を望むのは短時間で働きたいという理由だから、労働時間を短縮して対応し、全員正社員のままでの雇用を実現しています。これは究極の姿で、目標にはしたいのですが、なかなか簡単ではありません。しかし、対応し始めているという事例が報告され始めています。
『強い会社作る働き方革命 3つの破壊が始まった』*2とのタイトルで配信された日経の記事はとても興味深いものがありました。

*2 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO08262800S6A011C1000000/
※要登録

2014年9月から社員の7割を占めていたパート・アルバイトを全て正社員化し、週に「12~24時間」「25~38時間」「39時間」の3つの働き方を設けたイケアの事例が紹介されていました。半年や1年単位で更新されていた契約を無期契約にもして、同じ職種であれば同じ賃金の幅の中に収まるようにしたそうです。処遇改善された社員からは「ずっとイケアにいられるし、モチベーションが上がった。どんどん業務知識を深めていきたいです。」との声が届き、結果として離職率が半減したのに加えて、他社で正社員として働いている優秀な人が応募してくるケースも増えているというのです。
これは素晴らしいです。正社員比率を高めていく方向に「働き方改革」を実行して、人本チックな社風が形成されてきているということが紙面から伝わってきます。

賃金はコストではなく、持続可能性を高めるための投資

記事では、ほかにも「常に他社を上回る給与と福利厚生を提供する」として、首都圏でも地方でも全国一律で最低時給1150円で求人している小売業コストコの事例や、「スマート社員」という新たな正社員制度の運用を開始したりそな銀行の取り組みが紹介されています。
「非正規社員を使う理由のトップは『賃金の節約』だった。だが、人を『コスト』として扱う近視眼的な発想から抜け出しフェアに扱えば、個人の生産性は大きく高まる。それは、企業自体の生産性や競争力が高まることと同義なのだ。イケア、コストコ、りそなの事例はそれを示している。」と記事は締めくくっていますが、そのとおりだと感じます。
短期的な視点ではなく長期的に考えて「働き方改革」をとらえていくことが何より重要で、それにより職場が人本主義的に成長していくという結果が得られることを先進事例が示し始めています。とてもいい兆候であると感じます。

執筆者:小林 秀司

株式会社シェアードバリュー・コーポレーション代表取締役。
人を大切にする「いい会社」づくりのトータルプロフェッショナル。内閣府認定
「地域活性化伝道師」。
社会保険労務士。法政大学大学院中小企業研究所特任研究員。企業内で行う「社風をよくする研修」
の実践を得意とする。また行政機関でも多くの講演実績がある。
著書に「人本経営」(NaNaブックス)、「元気な社員がいる会社のつくり方」(アチーブメント出版)等がある。